徒然な風の場所―「夢見石の庭」 

徒然と日常なり、夢の出来事なり、TVの感想なりと日常の中の不思議をつづっていくブログです。よろしくお願いします。季節凪がささやかにどこかで

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甘い雨の日に

昔書いたものですが。

11月11日11時11分というように、ぞろ目になると何かその時の記念が欲しくなる今日この頃です。

[甘い雨の日に]

甘い潤しい雨がさやさやと雲間から降り来たっていた。

こういう雨は、優しいからとても好き。

それは、都会にいた時でも、山にいた時でも、そして今でも変わらない。

私はお気に入りの空色の傘をさしてあの人の横を歩く。

そういえばあの人は、よく気がつく人だった。

優しげな笑みを浮かべながら、いつも傍にいてくれた。

「君は、いつも傘を少しずつ傾けながら歩くんだね」

「うーん。傘の格子の部分の布からはみ出たとこに被せるキャップみたいな部分があるでしょ?」

「そこを傾けて見ているの?」

「そう、なるのかな。雨がね、ぽたりぽたりとそこから地面へ吸い寄せられていくんだけど、ある部分から落ちる水滴は、他の部分よりも少ないことが往々にしてあるんだよ」

「だから、傾けて調節しているのかな?」

「そうだよ、雨の日の小さな合奏会」

「そうなんだ」

「私、小さい頃からいろいろ僻地暮らしが長いから、同年代の子があんまりいなかったんだ、傘を私の方にかざしてくれる人はいたけど、私はともに歩みたかった」

だから、雨の日の小さな合奏会のの観客はいつも、私一人。


彼女は僕にとって、掛け替えのないものの筈だった。

彼女の不思議な発想は、僕の荒んだこころを癒してくれる。

「君の、その蒼い瞳は、空ばかり眺めていたからなんだね」

いつの日にか、高台のある公園で彼女に言った言葉。

「そう、なのかな。」

「私の、あのお気に入りの場所の変化に気付いたのは君が始めてだよ」

彼女は、はにかみながらそう言ってくれた。

その時、僕は彼女にとっての何者かになれた気がしたのだ」

「空、楽しい?」

「むぅ、分からないよ」

「地上には楽しいことは無い?」

「それも、分からないよ」

「君らしいね」

「分からないよ。何が私らしいのかなんて」

「はは、言えてるね」

「ばいばい」

その日を境に僕は彼女を見なくなった。

年月とは皮肉だ。

彼女が、あの人に変わり、そして、記憶が想い出に変わっていく。



「ああ、失った。失ったさ、何かを。失ったのが何かさえ、今となっては分からない」

「ただ、君にとっての彼女との重さと、彼女にとっての君の重さが違っただけ」

僕の吐露に対して、友人は一言、ただ其れだけを言った。
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Novel 掌編 | コメント:0 | トラックバック:0 |
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